医学は日進月歩で進んでいますが、うつ病の原因はまだ完全には解明されていません。


 従来はセロトニンを中心とするモノアミン説が有名でしたが、最近の研究では、この説を支持する強力な証拠は見つかっていません。むしろ、脳細胞の神経炎症説や腸脳相関と呼ばれる腸と脳の相互作用が注目されています。

 モノアミン説というのは、「神経細胞の接合部でセロトニンなどの伝達物質が少なくなってしまい、神経細胞の興奮がうまく伝達されない」というものです。一般の人がこれをイメージするのは難しく、説明されても「?」で終わってしまうでしょう。しかし最新の研究では、特にノルアドレナリンの働きの異常が、うつ病の自責感や不眠などの症状と関連していることが分かってきました。

また、「うつ病は心の風邪」なんて言う人がいますが、そんなことはありません。患者さんにとってはとても深刻な病気です。今まで普通にできていたことができなくなってしまうのですから。それがどんなにつらいことか。おそらく世間の多くの人は、うつ病について間違った見識を持っていると思います。周囲の人がなかなか理解してくれないのもこの病気の特徴と言って良いでしょう。

 私はうつ病の原因については次のようなイメージを持っています。

「慢性的なストレスや脳の酷使により、①神経炎症とミクログリアの活性化、②HPA軸の機能異常によるコルチゾール過分泌、③脳由来神経栄養因子(BDNF)の減少、④腸内細菌叢の乱れによる腸脳軸の機能低下が生じ、脳全体の機能が低下する。その結果として、神経伝達物質のバランス異常が起こる」

というものです。簡単に言うと、

「ストレスや脳の使い過ぎが続くと、脳の中で炎症が起き、ストレスホルモンが過剰に分泌され、神経細胞を守る物質が減ってしまう。さらに腸の状態も悪くなり、それが脳にも影響する。こうして脳全体が疲れてしまい、今まで脳でやっていた事が出来なくなる。眠るという事も出来なくなり、脳の疲労はドンドン進む。そうすると悪い事ばかり考えてしまう。そして不安になり、また悩んで脳を使い、炎症と疲労が進行する」

のような事になります。簡単に言うという事は難しい事ですね。

 うつ病を心配している方だけではなく、体の症状が出ている方で

「こんなに具合が悪いのに、どこの病院に行っても異常がないといわれる」

と心配され苦しんでいる方も、脳の使い過ぎから体の症状が出ているのかもしれません。最近の研究では、脳と体の各臓器が密接につながっていることが分かってきており、脳の不調が様々な身体症状を引き起こすことが明らかになっています。

 これから書くことは、私が外来でうつ状態の方に最初にお話しすることです。しゃべれば20分ぐらいかかるお話です。全部書くとおそらくとても長くなります。具合が悪くても読めるようになるべく簡単に書きたいと思います。

一度に沢山読むと脳に負担をかけて疲れてしまいます。読んでいてつらくなるようならまずは休んでください。続きはゆっくり読んでください。