お薬について説明します。脳内作文がネガティブになっている患者さんは「精神科の薬など飲んでは脳が溶けてしまう」と思っている方がおおぜいいらっしゃいます。
そんなことはないですよ、というお話です。
うつ状態の方には主に抗うつ薬、抗精神病薬、睡眠薬、抗不安薬を使います。
①抗うつ薬
やせて小さくなった脳細胞の燃料タンクを大きくする薬です。燃料タンクが大きくなると発電の燃料がおおくなり、脳内作文がしやすくなって楽になります。脳の肥料だと思ってください。長期に内服しても安全性の高い薬です。
ただし、内服して最初の1週間は少し具合が悪くなります。主に吐き気、軽いめまいなどです。ここでやめてしまう人が結構います。これは我慢をしてください。乗り切るとぐっと楽になってきます。どうしても我慢できなければ、別の薬を試します。昔と違い、今はいいお薬が沢山あるので、自分に合うお薬を見つけましょう。
②抗精神病薬
「死んでしまいたい」という考えが出てきている方はこのお薬がいいと思います。ネガティブ作文の最終形態が「死んでしまいたい」ですから、重症だと思ってください。元気な時にはそうは思っていないはずなので、妄想と言ってもいいと思います。そういう時にはこのお薬の相性がいいです。
また、違う病気がベースにあってうつ状態になっている方もこのお薬があっていると思います。
この薬は脳細胞の本体に効く肥料のような薬だと思っています。有機肥料のようにじんわりじんわり効いてきます。
③睡眠薬
脳は休憩時間が絶対に必要な臓器です。原始的な臓器である心臓は生まれてから死ぬまでずっと休みませんが、高度に進化した脳は人生の1/3~1/4の睡眠という休憩が必要です。
うつ状態になると脳が弱る→考え事して寝付けない、睡眠のコントロールが悪くなって途中で起きる→休憩時間である睡眠時間が短くなり、エネルギーが充電されない→うつ状態が悪くなるというループになってしまうので、睡眠薬を使ってでも強制的に脳に休憩を取らせることが必要です。
うつが良くなってくれば、睡眠のコントロールが戻って睡眠薬が不要になる方も多いです。
依存性が問題になっていますが、ベルソムラ、ロゼレムなど依存性の少ない薬から使うことが多いです。眠くなる抗うつ剤を使ったりもします。
ベンゾジアゼピンと言われる系統の睡眠薬も、リラックスや肩こりや寝つきの改善などがとっても楽になる薬です。不安が強い不眠の方はこの薬を初期にしっかり使います。お医者さんにコントロールしてもらいながら使えばそれほど怖い薬ではありません。
④抗不安薬
私は「不安の解熱剤のような薬」と説明しています。肺炎になって熱が39度になったら解熱剤を飲みます。肺炎自体が良くなるわけではありませんが、熱が下がって楽になる。その間にしっかり眠ったり、食事をとったりして全身状態をよくして、その結果肺炎を治すことになります。
抗不安薬もうつ状態を治すわけではありません。不安を軽減し、悩みを少なくして脳細胞の運動を少なくし、その結果楽になるという機序だと考えています。この系統の薬もベンゾジアゼピンが多く、依存性の問題があります。ですので、出来れば2~3か月で中止できればいいと思っています。
自分では増減しない方がいいです
薬を飲むのが怖いとか、元気になってきたからとかの理由で薬を自分で減らしたり中止したりする方がいますが、あまりよろしくありません。自分のことは案外わからないものです。
そもそもうつ状態の方は判断力が鈍っています。薬を自分で変更したりすると、それが悩みの種になってさらに具合が悪くなることがあります。
具合が悪いときは、いろいろな判断は人に任せた方が楽になります。